研究概要 |
■ 研究概要
◆研究課題
正当防衛を中心とした違法性論の研究
刑法解釈学における理論と実務の架橋
◆研究概要
研究課題の一つは、ライフワークである、正当防衛を中心とした違法性論の研究、もう一つは、刑法解釈学における理論と実務の架橋である。
正当防衛は刑法解釈学において古くから研究されてきた問題だが、先行事情が存在する正当防衛状況に関する議論は解決を見ず、更に、最決平成29年4月26日を受けて正当防衛論はある意味混沌としているといえる。例えば、「検察官の上記主張が、・・・〔1〕正当防衛状況と、〔2〕その存在を前提とした防衛行為性(防衛の意思及び防衛行為の相当性)の要件とをおよそ区別せずに諸般の事情を全体的に考慮して正当防衛の成否を検討すべきであるとの趣旨であるとすれば、それは・・・刑法36条1項の文理や、これに基づいて侵害の急迫性、防衛の意思、防衛行為の相当性といった要件を基本的に区別している一連の判例にもそぐわないものであり、正当防衛の判断を著しく不安定にするもの」(横浜地判令和3年3月19日)であるという判決は、この正当防衛論における混迷を如実に表しているといえよう。
「刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとは認められ」ないとして正当防衛の成立を否定した前出平成29年最決が示すように、実質的判断が要求される違法性阻却事由においては、正当防衛原理の深化を基にして、各成立要件の関係を解明し、どのように総合的な判断を行うのかについてある程度具体的に示す必要があり、それによって初めて法的安定性を確保できる。
正当防衛論の研究は、裁判員制度にも資するものである。自招侵害に対して初めて最高裁が判示した最決平成20年5月20日は、裁判員制度を意識して、法の素人に理解しやすい正当防衛論の構築を目指したものであるとの指摘がなされているが、同判例に対する評価からもわかるように、裁判員にわかりやすい正当防衛理論が提供されているとは必ずしも言い切れない。先述の平成29年最決も、正当防衛の成否を判断するにおいて考慮すべき要素を具体的に列挙しているが、各要素の相互関係、そして、それらをどのように考慮して正当防衛の成否を判断すべきなのかは自明ではない。
裁判で争われる正当防衛の事案は、教壇事例と異なり、何らかの先行事情が存在することがほとんどであることから、正当防衛の成否の判断において先行する事情をどのように考慮すべきか、どのような事情が考慮されるべき先行事情なのか、それらは正当防衛の各成立要件とどのような関係にあるのか、これらを解明する必要がある。そのためには、我が国における判例及び学説の研究は勿論のこと、比較法研究も重要であると考える。私は、自招侵害に関する規定を設けていたカナダを比較法の対象として研究を行ってきた。同国の議論は、いわゆるケースバイケース型の正当防衛規定のプロ&コンを示し、正当防衛論を検討する上で有益なものであったが、同国は、約10年前に、防衛者による挑発の有無という大きな枠組みを撤廃するという正当防衛規定の抜本改正を行い、新規定を適用した判例が蓄積され始めた同国の研究は、これまで以上に我が国における正当防衛論研究に有益であると考える。
いうまでもなく、正当防衛も、理論と実務の架橋を意識して研究を進めるべき分野といえるが、昨今、刑法の様々な論点に関して、理論と実務の架橋の重要性を再度意識させる重要判例が下されている。先の正当防衛論に限らず、刑法解釈学における重要論点について、実務との架橋を意識した学説の深化を試みたいと考えている。 |
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業績 |
■ 学会発表
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■ 著書・論文歴
1. |
2023/11 |
論文 |
<書評>木崎峻輔著『相互闘争状況と正当防衛-理論と実務の交錯-』(2023年、成文堂) 刑事法ジャーナル (78),198頁 (単著) |
2. |
2023/07 |
論文 |
特殊詐欺の受け子に対する詐欺罪の故意および共謀の認定 同志社法学 (436),277-311頁 (単著) |
3. |
2021/03 |
論文 |
カナダの新正当防衛規定に関する一考察 同志社法学 72(2) (単著) |
4. |
2021/02 |
著書 |
『イギリス刑法の原理』 (共著) |
5. |
2020/11 |
その他 |
偽証の意義 刑法判例百選Ⅱ各論〔第8版〕 (単著) |
6. |
2019/03 |
論文 |
児童虐待とカナダ刑法43条 (単著) |
7. |
2018/10 |
論文 |
自招侵害、自招危難、強要による行為に関する一考察
-法益衝突状況の自招と法益の保護- 日髙義博先生古稀祝賀論文集 上巻 (単著) |
8. |
2018/05 |
その他 |
A・アシュワース&J・ホーダー『刑法の原理(第7版)』(5) 同志社法学 70(1),91-116頁 (単著) |
9. |
2018 |
論文 |
ドメスティック・バイオレンスと刑事法 同志社法学 69(7) (単著) |
10. |
2017/01 |
論文 |
法学部教育におけるリーガル・クリニック教育の可能性―カナダ・トロント大学リーガル・クリニック刑事法部門の訪問調査を経て― 産大法学 50巻(3=4号),1-24頁頁 (単著) |
11. |
2016/12 |
論文 |
2016年学界回顧(刑法) 法律時報 88巻(13号),42-57頁頁 (共著) |
12. |
2016/10 |
論文 |
防衛行為の相当性に関する一考察 浅田和茂先生古稀祝賀論文集 (単著) |
13. |
2016/01 |
論文 |
正当防衛における相当性の判断方法 判例セレクト2015 (単著) |
14. |
2016 |
著書 |
『新・判例ハンドブック【刑法各論】』 (共著) |
15. |
2015/12 |
論文 |
2015年学界回顧(刑法) 法律時報 87巻(13号),54-70頁頁 (共著) |
16. |
2015/10 |
論文 |
状態犯と継続犯に関する一考察~最高裁平成24年7月9日第三小法廷決定を契機として~ 産大法学 49巻(1=2号),1-30頁頁 (単著) |
17. |
2014 |
著書 |
判例講義刑法Ⅰ総論 〔第2版〕 (共著) |
18. |
2014 |
著書 |
法学講義 刑法1 各論 (共著) |
19. |
2014 |
論文 |
偽証の意義 刑法判例百選Ⅱ 各論 【第7版】(有斐閣) 248-249頁頁 (単著) |
20. |
2014 |
論文 |
刑法208条の2第2項前段の「人又は車の通行を妨害する目的」(東京高判平成25・2・22) 判例セレクト2013[Ⅰ] 刑法5 31頁頁 (単著) |
21. |
2014 |
論文 |
自招侵害と正当防衛論 理論刑法学の探求 第7巻 (単著) |
22. |
2012 |
著書 |
判例プラクティス 刑法Ⅱ 各論 (共著) |
23. |
2011 |
論文 |
最新重要判例解説 成文堂・刑事法ジャーナル (29),102-107頁 (単著) |
24. |
2011 |
論文 |
正当防衛 『刑法の判例 総論』 (単著) |
25. |
2011 |
論文 |
正当防衛状況の創出と刑法三六条 成文堂 (単著) |
26. |
2010 |
著書 |
判例プラクティス 刑法Ⅰ 総論 (共著) |
27. |
2008 |
論文 |
判例セレクト2007 有斐閣 32頁 (単著) |
28. |
2008 |
論文 |
建造物損壊罪 刑法判例百選Ⅱ各論 【第6版】(有斐閣) 160-161頁 (単著) |
29. |
2008 |
論文 |
自招侵害について 刑法雑誌 47(3),43-56頁 (単著) |
30. |
2007 |
著書 |
法学講義 刑法1 総論 (共著) |
31. |
2006 |
著書 |
刑法ゼミナール(各論) (共著) |
32. |
2006 |
論文 |
正当防衛と侵害回避義務~イギリスの正当防衛論における退避義務を中心に~ 同志社法学 57(6),437-466頁 (単著) |
33. |
2005 |
論文 |
カナダ刑法改正議論と自招侵害 同志社法学 56(6),2295-2329頁 (単著) |
34. |
2004 |
著書 |
はじめての刑法 (共著) |
35. |
2004 |
著書 |
ロースクール生のための刑事法総合演習 現代人文社 (共著) |
36. |
2004 |
論文 |
最新重要判例解説 現代法律出版・現代刑事法 6(1),72-77頁 (単著) |
37. |
2003 |
論文 |
不動産侵奪罪における「侵奪」の意義 同志社法学 54(5),2022-2043頁 (単著) |
38. |
2003 |
論文 |
赤色信号殊更無視と「危険運転致死傷罪」 判例評論 (538),214頁 (単著) |
39. |
2001 |
論文 |
わが国における自招侵害の議論の展開について 同志社法学 53(3),299-342頁 (単著) |
40. |
2001 |
論文 |
ハンス・ヨアヒム・ヒルシュ古稀祝賀論文集の紹介 立命館法学 (276),203-212頁 (単著) |
41. |
2001 |
論文 |
警察官によるけん銃の発砲が違法とされた事例 甲南法学 41(3・4),307-326頁 (単著) |
42. |
2000 |
論文 |
カナダ刑法における正当防衛と自招侵害に関する一考察 同志社法学 51(6),116-161頁 (単著) |
43. |
2000 |
論文 |
刑法36条1項にいう「急迫不正の侵害」の継続と防衛行為の相当性 同志社法学 51(6),263-276頁 (単著) |
44. |
1999 |
論文 |
自招侵害について 同志社法学 50(3),285-320頁 (単著) |
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